胎内の死
ひとに掛けたい言葉はわたし自身の中には無かった。
何も無いものを、わたしは言葉にしようとしているのか。何も無いものを、わたしは誰かに伝えようとしているのか。わたしの指は拙く細い。壁に傷一つつけられずにいる ひとに語り掛けるための言葉は、自分のため、自分を保つために語る言葉とはきっと違うんだよ、と、そんなことにやっと気がついたのは今日だった。青い鱗がくもりガラスを波立てる、春にも似たその朝につまずいた風景は過去のもので、その頃のわたしは明るい街の公園を大勢の人が行き交うような世界の中に生きているという幻想をまだ抱いていた わたしの指と唇はどこまでも無力なのだろう、向こうまで届かせたい何かを抱え込んだまま、かき集めた断片を組み上げることもできずにいる。砂混じりの苦いかけらがわたしの骨を削り取る 明るく暖かい粗末な書割に囲まれてわたしはそれ以上に粗末だった。だがその書割の向こうにふと見えたものを追いかけて、わたしは自ら棄てたのではなかったか。一人で歩むしかない景色を選んだのではなかったか。それでもまだどこかに どこにも届くはずのない手をもどかしく丸めて、ささやかな形すら作ることのできない指をためらいがちにまた伸ばし、その中に掴んだものを、だがわたしの手は骸骨の手で冷たく乾涸びた ひとに掛けたい言葉は形になることのないままに
何も文章にすらできずにいる。書いては消し、また書いては消しと繰り返して数時間が過ぎた。疲れ果てた。これまでそんなことを何度繰り返してきたのだろうか。だが影を歩むことしか知らないわたしには、また沈黙したまま去って行くしかないのだろう。