油分の多い呑み話

 24日で全四日間の集中講義が終わる。非常に疲れた。
 全体的に非常に歯がゆい講義だった。もったいないという印象を受ける。とても面白い考え方や着眼を持っているたいへん優秀な先生と思うのだが、肝心の面白そうなところに入る前に話題がどこかに飛んでいってしまう。感性が非常によく、けれど論理的に説明するのがどうしようもなく下手というタイプの学生が、天才的な感性だけを武器にそのまま教授になってしまうとこうなるのだな、と思った。
 最終日は早めに終わった。講義後、院生三人とお茶を飲み、恨めしそうにバイトに行った一人を除いてそのまま飲みに行く。ちょっともったいない感じの残った講義と、おそらく先生が言いたかったことなどについて話していたら、わたしもこの先生と同じタイプですよね、と後輩に指摘される。そんなことはない、はずなのだが。だが確かに、メルヴィルがどういう作家かという意見についてはほぼ完璧に先生と一致した。そのケはあるのかもしれない。
 お酒を呑んでいるといつのまにか左に座っていた後輩が見事な酔っ払いに変身する。オタクの方々が好きなアニメについてその登場人物の好き嫌いとか発言とかを熱く語るように、白鯨の登場人物についてよくまわらない舌で延々暑く語り続ける。クィークェグはほんとに心が優しいんですよ、とくだを巻く酔っ払いはちょっとありえない。ほとんどつれない女の子について場末で愚痴を吐き続ける安背広の様相を呈しはじめる。しかしメルヴィルを四番とするなら五番桧山はフォークナーだよね、で通じる会話を数時間もやっている酔っ払いがいる飲み屋というのはよく考えたら異次元のようだ。自分がまだシラフで、のれんをくぐったらそんな世界だったとしたら、とりあえず店を出てしばらく考えるだろう。