オウムの悪戯

 起きて顔を洗おうと洗面所に芯の抜けた曲線の足取りで向かおうとした。大掃除の途上であるため部屋にはさまざまなものが広げられている。古い本の山、掃除道具のスプレーがいくつか、洗って乾かした雑巾が数枚、掃除機の先につけるアリクイの鼻、かつては重ねた本棚の天辺に鎮座していた椰子の実と木で作った花入れ、これは昔に骨とう品屋で捨て値で売られているのを見つけ、灰皿にちょうどいいと買って帰ったものだ。しかし実際に使おうとしてみると、もとが花入れなのでデスクに置くには大きすぎる。椰子の実半分の体積があるのだ。その椰子の実に腰掛けた木造のオウムになんとも言えず惹かれたのだが、これがまた大きい。そのためにバランスを崩してすぐころげてしまいそうになる。捨て値で売られていたのも納得できる。しばらくはそれでも意地で使っていたが、何しろ椰子の実でできているので、しっかり火を消さないと危ないのである。一度煙を出しているのを見つけ、以来灰皿としては使っていない。それからは本棚の上に鎮座して部屋に巣食うわたしを睥睨していた。
 そんなものを避けながら片手で戸を引き洗面所に向かう。足元だけではない、そこここに色々なものが出されており、いちいちそれらを手で分けながら進まねばならない。昨日クリーニングから引き上げてきたジャケットなどはビニールの袋を着たままで引き戸の前に吊るされている。半ば腰をかがめた格好で足にも手にも注意しながら風呂場へ進んだ。浴槽をざっと洗ってシャワーで流しお湯を張る。わたしは朝風呂に入るのが好きだ。そのせいで遅刻することも多い。それから顔を洗おうと鏡を見たら驚いた。わたしの頭に一本の洗濯バサミが喰いついていた。やや品のないオレンジ色の髪飾りよろしく頭の天辺からやや右側にひと束の髪の毛を掴み、貪欲な鳥の格好で揺れている。いったいどうしてこんなものが頭についていたりするのだろう。自分でつけるわけがない、かといってこの部屋にはわたしの他にオウムくらいしか住んでいない。寝ぼけて髪を整えようと、そんなことをしたのだろうか。いくらなんでもそれはない、まったく不思議なことである。