傾いた身体

 酔いのことではないが、まだ身体が飲みの影響から抜け出ていない。ほんとうに弱くなったものだ。いや、もともとわたしは強くない。強いふりをする方法を知っていたというだけだ。それはアルコールのことばかりではない。
 ふらふらする。こう書こうとして、手を止め一度自分を殴っておいた方がいいかと真剣に考えた。やはりまだ酔っているのかもしれない。ふらふらする。臆面も無く恥じも感じずただ、ふらふらなどと書いてしまうのは問題だろう。
 スプリングの壊れた椅子にあぐらをかいて坐っている。本来は普通に足を垂らして腰掛けるべき椅子なのだが、一人の時はどんな椅子でもわたしはたいてい足まで乗せて座っている。あぐらをかいたり足を組んだり時には体育座りになったり様々だ。もちろん人前ではしない。そんな癖のせいなのだろう、丈夫そうな椅子だったのだがスプリングが半分外れ、体重を下手にかけると斜めに傾ぐようになった。新品を買えば済むことだが、店に行くことより捨てることの方が面倒でまだそのまま使っている。中心に体重をかけバランスを取れば問題ない。
 この椅子の上に腰掛けて、足をあぐらに組んだままディスプレイに向かっている。左足のひざに不快な重みが感じられる。実際に体重をかけているわけでも椅子が傾いだわけでもないが、身体が斜めになっている感じがする。アルコールと疲労、寝不足のせいなのだろう。体感によると三十度くらいに傾いているが、実際は真直ぐ座っているので見える景色と感覚の差が気持ち悪い。ふらふらするとはこんな意味だ。
 しかし酔いは恐ろしい。コンビニでせめてもとウコンのドリンクを買ってきたのだが気休めにしかならないだろう。まだ全身に粘膜が出来たような感覚がある。蒸し器の中の両生類になった気分だ。酔いはいまだに抜けきっていない。抜けないままに書いているのが恐ろしい。もともと読みにくい文章なのに酔っている時はなお酷い。この酔いはアルコールに限らない。雰囲気に酔うこともあれば、自分に酔うこともあるだろう。こうした文書はなるべく早く手直しするか、せめて抹消した方がよい。とりあえず昨日書いてしまったものに手を入れようかと思っている。