馬鹿と煙

 高いところから下を見るのが大好きだ。四、五階くらいの高さでいい。京都はそもそもそんなに高いビルもない。高すぎて下がよく分からないようじゃ駄目だ。四、五階くらいの高さがいい。ああ、離れているんだな、と思う。地面との距離が体で分かる高度がいい。伸ばした手も絶対に触れない、それでもどうしても届かせたい指先から逃げるその高さを静かに眺めている。たいてい煙草を吸いながら、足下のアスファルトを見下ろしている。ふとした拍子に腕の重みも思い出す。見ているわたしの焦点が外れ、視界がぼやける瞬間もある。雲に邪魔されるように、だがそれでももう一度目を凝らす。地面は落ちていく、どこまでも逃げていく。見つめ続けていることがわたし自身の義務になり、そこから離れ難くなる。一本か二本かを吸い尽くすまで、いつも見つめ続けている。自分を置いていってしまうものをいつまでも見下ろしている。遠くの景色に視線を移して、それからやっとその場を離れる。いつもそんなふうにしている。