影のある道

 早起きをして出かける準備にかかる。二度寝してしまわないように起き出してすぐ顔を洗って歯を磨き、それからお茶を飲む。贅沢を言えば自分で入れたやや渋めの緑茶がよい。現状まだ台所が被支配化にあり解放は進んでいない。従ってコンロは使えない。使えば火事になりかねない。残念ながら昨日買いおいたペットのお茶だ。
 それにしてもだいぶん早く目覚めたので予定の前に散歩くらいはできそうだ。足の向くままどこへ歩いてもよいのだが、あらかじめ決めておくのも楽しい。わたしは細い道を歩くのが好きだ。寺町をずっと下ったり、あるいは鴨川の川縁をゆったり進むのもまた楽しい。通りに面した広い側でなく裏通りやや汚れたところも多い西側がわたしの好みだ。ふと川から逸れて小さな路地に入るのもよい。たまに行き止まりもあったりする。午前のやや日の高くなる時分、陽光にひらけた道から外れて小道に入ると幻惑される。空は確かに明るいのだが、まだ明け方の薄闇が残っているのだ。正午も過ぎるとそれも消える。
 あまりぐずぐずとしていると散歩する時間も失せてしまう。一本だけ吸ったら出ようと中身の少ないつぶれかけた煙草入れからつまみ出し、小さく作った手の中でライターの石を叩く。キーボードに向かっていたため眼鏡をかけたままであったことに気がつく。わたしは普段あまり眼鏡をかけない。ディスプレイに向かう時とハンドルを握る時、そうでなければよほど見えない時の他は裸眼である。目は十二分に悪い。人の顔がよく分からない。だが眼鏡をかけて歩くのは嫌いだ。面倒なことも多いのだが、それほど困ることは少ない。面倒は面倒で仕方がないと思っている。本は近づけるなら読める。
 デスクを片づけて鞄に詰める。この間学校へ行った時には煙草を一式忘れてしまいひどい目にあった。今日は忘れないようにと最初に入れる。まだ暑いかもしれないがジャケットを羽織り内ポケットに携帯を入れる。隅にその充電器が置かれている机には土曜に買った週刊誌が乗っている。もう捨ててしまおうと二冊ゴミ袋に食べさせる。粗い断裁を束ねた角がビニールを破り舌打ちをする。最近ゴミ袋が薄く破れやすくなった気がする。一旦マンガ誌を取り出してから新しい袋を古いのにかぶせる。それからもう一度、今度は丁寧に。
 はたと気がついたが今日は休日ではなかったか。月曜発売の週刊誌を週末に買ったとき、そう思った覚えがある。授業はないはずだ。調べてみないと分からないのだが、たぶんそのはずだ。せっかく準備をしたのにと思うが、教室に着く前に気がついたのはよかっただろう。とりあえずゆっくり朝食をとることにする。