アルミニウムについて

 ふと思い出したがクリーニングを出したまま取りに行くのを忘れていた。もう十日ほど経っているのではないだろうか、予定を書き留める習慣がないので大切な用事をいつもすぐにわすれてしまう。そもそもわたしは手帳を持ってもいないのだ。
 それにしても忘れっぽい。自分をアルツハイマーではないかと疑いたくなる時もある。何もかもふと忘れてしまう。年齢を聞かれて計算しないと出てこない。切符をどこにしまったかわからなくなる。傘はたいてい三日でなくす。これで老人になったらひどいありさまなのであろう。
 どこかでアルツハイマーの人の脳にはアルミニウムが蓄積されていると聞いたことがある。本当なのかどうかは知らない。だがもしそうなのだとしたら、わたしの頭蓋骨にはそろそろアルミの内張りがきれいにできているかもしれない。
 アルミニウムで思い出すのはイオン化傾向のことである。小さい頃化学が好きで自分で試験管などを買いそろえ、いろんな薬品を手に入れては悦に入っていた。アルミは非常にイオン化しやすい。銅イオンの溶液などにアルミを入れてしばらく置くと、銅の代わりにアルミが溶け出したりするのだ。表面に酸化膜ができてしまうとうまくいかないこともあるのだったか。このあたりの知識はもう随分以前に棄ててしまった。どのようなことがあったかはもはやほとんど覚えてもいない。だがあの何かが何かに変わってゆく楽しさや、変化を見つめる昂揚感だけはいまだに記憶の中にある。
 ところで金属にイオン化傾向があるように、人にはボケ傾向なるものが定義できるのではないかと思う。人と会話するときにボケ役にまわるかツッコミにまわるかの性質のことだ。わたしはどうも中間地点にいるらしく、話す相手にもよってこの役回りがころころ変わる。自分では人にツッコんでいる方が楽なのだが、最近のわたしの周囲には非常にツッコミ傾向の高い人ばかりが多く、容易にツッコませてはもらえない。たいていはボケ役にまわらされ、また変なことを言っているよと言われるばかりなのである。