悪い癖

 火曜日の発表が無事終わる。今まで読んだことのある小説の中でも考えられないほど難しいテキストだったのだが、ざっと読んだ感じ担当箇所はそれまでに比較して一番楽そうだったので、つい余裕をかまし日本シリーズ終戦を見ていたら余裕じゃなくなってしまい大変な目にあった。
 それはともかく仕事でもなんでも締め切りのあるものは昔からぎりぎりまでやらない。どうしようもない癖だと思うのだが、どうにもなっていない。いつの間にか過去の自分の記録とチキンレースをするようにまでなってしまった。前回は三日でできたから、今回は一日。なんだ、一日でもなんとかなったなら、朝早起きすれば次はいけるな。その連鎖の果てに、なんだ、レポートなんか出さなくても人間生きていけるな、が待っている。
 滅多に会わない同級生からメールが来て、論文の書式設定を聞かれた。それで昔の卒論を調べてみたのだが、恐ろしいことに年明けから書き始めている。そんな覚えがおぼろげにあったのだが、締め切りは一月の十日くらいである。実質一週間で卒論を書いたことになる。地獄のような日々だったことは覚えている。ほとんど寝てもいないはずだ。ユンケルを一日数本服用していた記憶がある。提出してから帰りのバスを待つ間、ベンチに腰掛けて足元を見ていたら幻覚を見た。地面を舗装するレンガとレンガの隙間に目にもとまらない速さでアルファベットが流れていくのである。あまりに早くて何が書いてあるのかすら読み取れないが、それが英文であることだけはよくわかった。そんなものを見るのも死ぬ思いで英語を書いていたせいだろう。幻覚であることはその場で分かっていたのだが、驚きとか幻覚がどうかとかよりも、あまりに疲れ果てどうでもいいやと地面を眺め続けていた。その後どうやって帰ったかは記憶にない。