うすぼんやり登校

 昼から読書会に出席、Aimee Bender Girl in the Flammable Skirtの表題作。読んだことのない短編では久しぶりに大変面白かった。しかしこういう短編は論じにくい。仕掛けがわからないというのではなく、仕掛けは目に付くのだがそれ自体が曖昧に絡み合いどう解きほぐしたものかわからない。発表者はアメリカ作家で数少ない「成功した」マジック・リアリズムと述べていた。しかしこれはわたしの知るそれとは違う。わたしがマジック・リアリズムと聞いた時、思い浮かべるのはマルケスなどの南米諸作家であったり、あるいはクンデラ、グラスなどなのだが、そうした、いわば「古典的」マジック・リアリズムの作家は、その語りの中でリアリズムな部分とマジックな部分がわりとたやすく分別できる。現実的な世界から空想的な描写への転換点がどこにあるかが分かりやすい。また幻想的な描写自体、物語の要所に限って使い全編多用することはない。
 しかし発表者が考えていたのは例えば川上弘美の小説のような、幻想的な描写とリアリズム的な描写とが常に行き来し互いを侵食しあうようなものであるらしい。なるほどこれは、確かにそんな小説だ。昨今このタイプの物語は数多いが、成功している作家はそれほど多くはない。これは優れた短編というべきだろう。
 ところで彼女が代表例として挙げたのは、村上春樹パン屋再襲撃 (文春文庫)』であったのだが、これはだいぶ例が悪いと思われる。少なくともこの作品には行き来はない。反リアリズムの世界へ行ったきりなのである。春樹ならもうすこしよい例がありそうなものなのだが。
 それはともかくいつの間にやら次回の発表を押し付けられる。バロウズとかをリクエストされていたのだが、さすがにあんなものに言えることはなにもない。たまたま持っていたジーン・ウルフIsland of Dr. Death and Other Stories and Other Storiesの表題作で許してもらう。まあ色々とタイムリーでもあるし、それにわたしの知る現代の短編小説中では十傑に入りうる大傑作なのである。そして何より大切なことであるのだが、実は数年前に同じ作品をしたことがあり、発表の手間がかからない。