町の書店で

 背の高い本棚に対面して立っていると悲しくなることがある。最近そんなことが多い。何に悲しいのかも分からない。泣きそうになる。
 町の片隅にある小ぶりな書店や古本屋の中で天井にあと少しの背丈の本棚に面と向かって立っている。前を見据える。固く詰め込まれた背表紙が並んでいる。貫く視線はタテヨコに並んだ文字を舐めているのか、それともその先に焦点をあわせて幻を浮かべているのか、あるいは何も見てはいないのか。背にも棚は立ち塞がっている。左手奥にも、どこにも。どこまでも言葉でできた壁が囲んでいる。手繰り寄せられない閉塞を具現して降りかかる。見下ろされている。閉じ込められている。たまらなく悲しくなる。なぜなのかさえ、分からない。なぜなのか分からない、と安易に語る唇からは血の毒が滲むだろう。泣きそうになる。