酔っ払い

 前期打ち上げの飲み会。ひと月ほどアルコールを口にしていなかったせいか、量の割に酔っ払う。それまでしばらく禁酒していた。禁酒なんてものでもないが、ひとりでは飲まない、食事代わりに酒を飲まない、明るいうちからなるべく飲まない、そんなふうに生活した。要は、誰かとお酒を飲む機会がない限り、自分からは飲まないというだけである。数人規模でも飲み会があれば、昨晩に限らず飲むつもりだった。たまたまそんなチャンスがひと月なくて、ちょっと禁酒めいたものになっていたというだけである。そもそも、ひとりで飲むのは好きじゃない。禁酒というほど意識もせずに、自然に酒を断つことができた。引き続きそんな生活を続けるつもりであるのだが、既に来週コンパの約束が入っている。
 ひと月でも飲まなかったら弱くなるということなのか、三次会のあたりから分かりやすく酔っ払いになっていた。まあ、三次会の時点では自分と後輩もうひとりしかいなかったので、醜態は彼にしか晒していないしよいのだが。それに相手も同じくらいには酔っていた。もうここ五年ほど、たちの悪い酔っ払いにはなっていなかった。二十歳前後くらいのころは、毎夜毎夜、どこかでくだを巻いていたり、吐くために籠もったトイレから一時間ほど出てこなかったり、東大路で歌ったりと迷惑な酔漢たちのひとりであった。その頃つるんだ人びとはみんなそんな酔い方をした。いつ頃からか、飲んでも酔いを外に出すことができなくなって、外面的には飲んでも飲んでもまったく酔わない人と思われていた。アルコールが何もかもを内にこもらせ、ただ白けて、醒めていく。そんな酔い方しかできなくなっていた。昔のように馬鹿な酔っ払いになれたというわけではないが、昨日は少し、羽目を外した酔いを味わえた。
 自販機で買ったお茶を飲みながら、機械の前にへたり込んでいたら、いつの間にかやって来た警官たちに取り囲まれて職務質問をされた。初めての経験だった。かつてあれほど迷惑な酔っ払いを日々していた頃は警官に止められたこともないのに、今ただ座ってお茶を飲んでいただけでそれほど怪しく見えたのだろうか。ともかく珍しい体験だった。二度は厭だが、一度は受けるのも悪くはない。