サリム自伝

草野心平「サリム自伝」

平和のための戦争である。
戦争をするのは平和のためである。
人民あるいは人類のために、その平和のために人民を殺さなければならない。
人を殺すのは、すべて平和のためであり人を殺すためではない。
人を殺すためではないが人を殺すのである。
話はいよいよこみいってきて、人を殺す遊戯も平然はじまるのである。

おれのふるさとソンミ。
ソンミでの大虐殺も平和のためだといわれている。
右腕のつけ根をノコギリで切られた男もいる。
ザクロの乳房。
マニラ麻の縄で胴っ腹(どてっぱら)や首や手首をつながれ。ジュズつなぎにされ。
(すべて平和のために)
銃口がむけられ。
dddddd dd
dddddd dddddddd dd

俺はそのとき。
小川の流れている原っぱに逃げる筈だったが。あわてて逆に。
倒れかさなった半死人たちの下積みになり腹がやぶけた。
俺にも成仏はない。
大きなコウモリに化けてソンミの空をとんでいる。いまでも。
誰も俺に気がつかないようだが。
大きなコウモリになって。