結婚式

 月のはじめに結婚式があった。大学に入ったばかりの頃、所属していたサークルの同級生で、器量が良くない上に性格も悪かったので自分は嫌っていたが、なぜかサークルではそれほど嫌われてもおらず、仲のそれほど悪くはなかった自分と同じくらいに性格の悪い男と付き合っていた女のもので、相手はその男ではなかった。理学部を卒業しサークルと縁が薄くなってからというものまったく会っていなかった顔見知りたち数人と、五年かそのくらいぶりに会うことができた。当時、新婦とつきあっていた男は来ていなかった。彼とはもう五年会っていないことになる。サークルで同じ役割についており、複雑な関係にあった女はより複雑な関係にはなかった男と結婚して、二児を連れて参列していた。まだ小さいが、二人とも両足で立つことができる年齢だった。考えてみれば、この前に彼らと会ったのはこの二人の結婚式で、この上の子がその時母親の腹にはいたはずだ。一見しっかりしているようでいて、その実、追い詰められるとどうしても一人では立っていられない弱さのあった女は立派な母親になり、いたずら盛りの二人の子どもをしっかりとしつけていた。性格はいいのだが、心底いいかげんでいつもぼんやりとしていた楽観主義だけがとりえだった男は、家族を率いて堂々と座っていた。あるいはそういう幸せを認めるべきなのかもしれない。それがまやかしであることを心底わかってしまったために、それを手に入れる資格を失ってしまった身にもそれは幸せそうにも見えたのだから。誰も彼も会わなかった時間の分だけ年をとっていた。おそらく自分もそうなのだろう。醜い女はより醜悪さを増し、美しいと思った女の顔にはしわが寄っていた。物静かな長身痩躯で、しかし女慣れしていないがために悪い女をつかまされることになった、ただ一人の友人の額は後退し全てがだいないしになっていた。老いていくのは自分だけではなかったか。かつて一番人気のあった女に声をかけられそれとわからなかったのは、何も自分の視力が衰えたせいだけでもないのだろう。自分に並ぶ性格の悪さと厳しさに一目置いていたのだが。それゆえに喧嘩別れしたはずで、最後に会った時にはやんわりと話すことを拒絶された覚えがある。互いに気があり、そのことを互いに、そして周囲もわかってはいたが、自分自身がサークルで与えられた面倒な仕事の同僚であった女からの好意を、その役職についていた間ずっと無視していた手前、(その同僚の女もそのことをわかっており、そのために自分が引いて二人をうまくいかせようとしていたのだが)、結局それを形にすることはできなかった。そのせいかはわからないが、向こうは数ヶ月ほどの間顔を出さなくなり、その間に新入生をひっかけたことがおそらくは決定的な要因になり、絶交状態のまま会わなくなった。かつて、かわいらしいとみんなに思われ、そのかわいらしさの一つの頂点であった彼女の八重歯は、見苦しい不ぞろいな出っ張りでしかなかった。