病院嫌い

 医者と病院が嫌いだ。薬も嫌いだ。
 白状すると、いくらわたしでもこんな自分の状態が、ひょっとしたら病院に行くべきほどのものではないかという自覚はある。行ってみたら、その程度まだまだ甘い甘いと、医者に笑われる程度のものかもしれないが。
 高校時代のことがあって医者嫌いになったわけじゃない。その前から好きじゃなかった。もっともそのことで嫌悪感が強まりはしたかもしれない。
 まあでも医者が嫌いなのは誰でも同じなのかもしれない。思えば、つきあった女の子たちはたいてい病院に行くのをいやがった。一度あまりに生理不順がひどい子がいて、熱まで出したのでなだめすかして病院に連れて行こうと、背におぶったら手に噛み付かれた。自分の病院嫌いもまだまだだなと思った。まあ、女の子のことなのでわからない。一人だけ、栄養点滴を受けるのが好きで、趣味のように毎週医者に通っていたのがいたが、その子とは結局つきあっていない。
 ともかくも医者は嫌いだ。
 嫌いだが一度ちゃんと診てもらうべきかもしれない。一年以上前に院を出た研究室の先輩に、四条河原町の付近にいい病院があるとは聞いたがいまだ探してみてもいない。まあ恐らく行きはしないだろう。医者嫌いだからではない。
 ただの思い込みかもしれないのだが、このことに関しては医者にかかってはいけない気がするのだ。医者にかかったり薬を出してもらったりもしすれば、あるいは楽になるかもしれないし、それで治るのかもしれない。だが、なんとはなしに、それはしてはいけない気がするのだ。わたしは、わたし一人でこれと対決しなければいけない。苦しいのは確かなのだが、たぶんこの苦しみは自分自身の財産でもある。だから、薬や医者でなんとかごまかすのではなく、わたし自身がその中で十分苦しみもだえなければいけないような気がするのだ。わたしにとっては同じことなのだが、それはありがたい財産でもあり、またわたし自身の罪に対する絶対に逃げてはならない罰でもある。結果その重みに耐えかねて、潰れてどこかでのたれ死ぬことになろうとも、わたしは一人でその罪に苦しみ罰と戦い続けなければならないのだろう。
 わたしは医者にかかったことはないし、これからもかかるつもりはない。薬も同じだ。合法のものにせよそうでないものにせよ、例えば抗鬱剤であるとか向精神剤であるとかを、使ったこともつもりもない。ただその中でわたしが自身に許すのは、コーヒー・お茶、それにタバコとお酒だけである。もっともこれらも、もはやほとんど効かないのだが。