入城

 今日も戦争は続いている。敵の姿の見えない戦争。とても個人的な、暗闇の中で一人で何かと取っ組み合いもがいているような戦争。
 それはまた、どこかに駒と盤のあるチェスのような戦争でもある。陣地が少しずつ敵に奪われ勢力圏は後退し、安易な入城があだとなり、もはや身動きもままならない。あとはじっくり詰められるだけのチェスの駒。その中にわたしを閉じ込めたのは誰だ。わたしを動かしているのは誰だ。遠く敵のビショップがわたしをにらんでいる。ナイトの蹄鉄の音が近くに聞こえ、そちらを見やるがもはや敵の姿はなくなっている。ただそれが跳ねた後の土煙が強く臭っている。わたしは包囲され、殺されようとしている。