ごく短い物語

 起床するとたいていコーヒーを飲む。緑茶の方が好きなのだが起きた時はコーヒーでなくてはならない。自分で淹れることもあるが最近は外で済ませることがほとんどだ。一人分だけ淹れてもあまりおいしくない。
 この時間に喫茶店は開いていない、仕方ないので缶のコーヒーを買い、夢を見始めているバス停のベンチに腰掛けてタバコ片手に自分だけの喫茶店を開く。雨の匂い。やがて来るなにか。室内をあかあかと照らしながらまどろむバスが目の前に止まりまた行過ぎる。金属の味しかしない缶にくちびるをつけ、携帯に来ていたメールに返事を返す、再び金属の味。墨色油の浮いたガムのへばりつくプラスチックの椅子は痛い。雨の匂い。バスの扉。まぶしく開く。暗闇。塵の臭気。あめのにおい。わたしはなにを待っている。