曖昧な食欲

 洗濯とお掃除を終わらせて夕食がてら外出した。五時を過ぎるともう暗い空に秋になっていたことを思い知らされる。このところ夜も寒い。シーツの下に断熱効果のある化繊のマットを敷いてはいるが、それでも寝床は冷たく感じる。肉の薄いアルミ板の冷感がする。
 晩は外食したのだが、まだ軽く小腹がすいて帰りにコンビニを物色した。あまり食べたくなるものがない。店内には鈍重な湿気の臭気がある。おにぎりかパンかあるいは稲荷でも買おうと思っていたがその気も失せてペットのお茶だけレジに出す。レジ台にはこまごまとしたガムや飴それからライターが端々から顔を覗かせている。右手にはおでんと中華まんが並んでいる。海苔色のくすんだ湯の中にくたびれ果てた具材が並ぶ。竹串に貫かれたすじ肉の残骸が浮かぶことも沈むこともできずに中途半端な空間に泳いでいる。こんにゃくの肌は末期の皮膚病の無残な白さを思い出す。触れば指の形に崩れるだろう。大根の姿は見えない。わたしはおでんが結構好きで、冬になるとたまに食べる。厚揚げ、大根、こんにゃくあたり、出汁のふくよかさを吸う具が好みだ。こうした長時間煮る料理ではフランスのポトフもまた味がよい。本式ではないのだが、小鍋に取って温める前に湯剥いたトマトを丸ごとのせて煮てやるとこれがまた美味しく食べられる。味が濃く多少酸味のあるものがよい。ポトフの始めから煮込んでしまうと崩れて味が汚れてしまう。食べる直前に加えて少し煮てやるのがよい。温めたバゲットに汁ごと吸わせて食べるのがまたたまらない。
 保温棚には空き部屋が目立つ。肉まんやあんまんといった売れ筋は全てはけてしまっているようだ。最下層には真緑色の中華まんがある。造花のつばきの葉の色をしている。
 結局食べるものは何も買わずにお茶だけもってわたしもひとけのない部屋に帰る。ホットの缶コーヒーのブラックがあれば買おうかとも思ったのだが、まだ自販機はほとんど全てコールドのようだ。ブラックは冷たいのしか置いてない。煙草に火をつける。明日の発表準備のために今日はもう一度深夜に外出することだろう。蛸薬師のコーヒーのうまいオールナイトの喫茶店にでも行こうかと思う。