悪いめぐり

 やれやれ。村上春樹の主人公ならきっとそう吐き出すだろう。やれやれ。最近わたしの周りは、そんなため息をつく以外どうにもならないことばかりである。うまく行かない時なんてそんなものかもしれないが、地面に降り積もった悪意や敵意や行き違いが時を定めて襲い掛かってきたようである。やることなすことがうまくいかない。うまくいっていたはずのものさえ、誰かのほんのちょっとした気まぐれで大きく方向が変わってしまう。何かしたことで責められるのではなく、何かしなかったことで責められる。ひとつふたつならまだしもなのだが、やれやれ、わたしの行く先、出会うところすべてでそんな事態が降りかかる。まったく、ついていない。
 ちょっとしたことにつまずいたり、何かしたことが裏目に出たりとそんなことはよくあることで、わたしも初めのうちはあまり気にも留めなかったが、こうも続くといやになる。人びとの間に何かの悪意が流れてるのではないかと疑いたくもなってくる。やれやれ。どうもひどいことになっている。起きていることのひとつひとつが、しかしこちらにはどうしようも無いことばかりで、それがまたわたしをいらいらさせる。ただ待つしかないことや、あるいは向こうから言って来るまで何も動けないようなこと、問いただそうにも、むしろそれが事態を悪くさせそうなことばかりである。やれやれ。あるいは、もちろん、わたしの考えすぎなのかもしれない。こんなことが続いているから、いつもなら見過ごすようなちょっとした行き違いや小さなことを、わたしが勝手に悪い方へと考えているだけかもしれない。そんな精神状態になっているのだろうとも思う。そう思うがしかし、そんな気分でいたくないのは誰よりわたし自身なのだが。
 やれやれ。また明日も誰かに会い、誰かと話す。そう考えると身体が自然に重くなる。ほんの少し以前なら、人と話すのが辛くはあっても、それはわたし自身の側だけで生じた苦痛であって、それで誰に何と思われようと気にもかけはしなかった。少なくとも、気にもかけないというポーズを取ることはできたはずなのだが。誰に憎まれても、誰にどう思われても、それ自体はわたしにとってどうでもよいこと、興味のないことのはずだったのだが。ああ、今わたしは参っているのだなと思う。実際参っているのだろう。まったく、やれやれだぜ。