美について

 どこで読んだのか、何で知ったのかも思い出せない。原文も覚えていない。確かポオ(Edger Allan Poe)の言葉だったと思うが間違っているかもしれない。「この世で、この世界で最も美しいのは、若く美しい少女が死ぬことである」こんな言葉だった。ポオで間違えていないとすれば、『詩論』かなにかだろう、そして彼が言う「この世で一番美しいこと」というのは、審美的価値のあること、芸術、とくに文芸や詩が描くべきことという意味だろう。若く美しい少女が非業の死をとげること、まだ息のあるうちに土の中に埋葬されて、だがその美しさは微塵も損なわれないままに、苦悶に捩れた指で石室の扉をかきむしり爪は割れて血をにじませる。その美がわたしに分からないわけではない。わたしは、彼の審美を理解できてしまう。だが、わたしが描くべき美とは違うだろう。芸術家ではなくとも、誰もがそれぞれの審美を持っている。彼の描くべき、そのひとにとってのこの世で最も美しいことというのを、おそらく誰しもが持っているだろう。ほとんどのひとにとって、それを見つけられないままに一生が終わるとしても。わたしはまだ見つけていない。強い目、意志のある、見つけたものに全身を預けてしまえる強い目をした人を見た。わたしはあれを美しいと思った。