ある物語について

 誰も読んでもくれないかもしれない、誰にもほとんど理解もできないようなことを語っているのだ、あえて読者を試すようなことをし、わざとはぐらかし、反対のことを言い、読み手の目からその真意を遠ざけようとする。誰にも分かってもらえないことを分かっていながら、それでも自分の中に、どうしても語らずにはおられないことを抱え込んでしまい、身を切るような覚悟と道化のような醜態を演じながらも、それでも破れかぶれで舌の上に言葉を乗せる。お前たちにはどうせ理解できないだろう、一方ではそう思い、読者を試しもするが、他方では自分の語らざるを得なかったもの、どうしても口に出さざるを得なかったものを、どうか、誰かに分かって欲しいと思い、白痴の言葉を語り続ける。
 そういう語り手の、あるいは小説家の、文章は読んでいるのが辛い。